高齢者とのコミュニケーション:
老-10
70歳のLさんの担当になったわ.
どんなお話をしたらいいかな…….
どきどきするわ.
70年前というと,戦後すぐのお生まれね.
太平洋戦争の終結が1945年だから,たいへんな時代に生まれた方なのね.
はっ! 年齢だけでそこまで推察できるのね.
さすがネコナース……!
ふふ,でも年齢でわかるのはそれくらいよ.
どこのご出身か,どんな環境で生きて来られたか,どんなものを大事にして来られたかで,同じ70歳でも,生きてきた軌跡はまったく違うもの.
そうか……70歳の方はみんな,それぞれに違う70年を生きてきているんだものね.
その方の生きて来られた生涯の歴史のことを
わたし,Lさんがどんな方か,知りたくなってきたわ.
ちょっとお話ししてくるね.
戦争の話はしたくない方もいるから,気が進まなそうだったら無理に聞いたりはしないようにね.
はーい.
(1時間後)
ただいま〜.
「たいへんな時代にお生まれになったんですね」って言ったら,「そうなのよ」っていっぱい小さい頃のお話をしてくださったわ.
ご主人も早くに亡くされて,いろいろ苦労されたみたい.
そうなの.
たくさんお話を聞けてよかったわね.
うん.
でもね,今はからだは思うように動かないけど食べるものにも困らないし,職員の皆さんが助けてくれるし,とってもありがたいって言ってたわ.
それはよかった.
職員の皆さんが聞いたら喜ぶわね.
あとで伝えておこうっと.
それでね,みんなには内緒なんだけど…….
Lさん,好きな人がいるんだって!
まあ,そうなの?
それはすてきね!
相手はまだヒミツだって.誰だろ〜.
でも,それを息子さんに言ったら
「70にもなって再婚でもする気なの?
恥ずかしいよ」って言われちゃったって.
その話のときだけちょっとしょげてたわ.
それはショックだったでしょうね.
あなたはなんて言ったの?
「何歳になったって,恋はステキです!」って断言してきちゃった.
……まずかったかなぁ?
いいのよ,それで.
ほっ,よかったぁ…….
でも,70歳になっても恋はあるんだねぇ.
なんだか,わたしまで幸せになっちゃった.
りっしんべんに生きると書いて「性」よね.
すでに産み育てる年齢でないとしても,セクシャリティの尊重はQOLの維持につながる
Lさん,幸せそうにしてたでしょ?
うん! すごくいい笑顔だったわ.
何歳になっても,恋するとキレイになるのね〜.
高齢者の生活アセスメント:
老-8
Lさんの人柄,社会的な側面がわかったところで,身体的な面もきちんと理解しておきましょうね.
Lさんはどうして要介護状態になったんだっけ?
えっと,脳卒中で左片麻痺の後遺症があるの.
疾患としてはそうね.
ただ,片麻痺の方は世の中にたくさんいて,おうちで生活してる方もいるわよね.
どうしてLさんは特別養護老人ホームに入られたのかしら?
あ……どうしてだろ?
障害が重かったから……?
要介護度も4だったわ.
そうね.
要介護度が重いということは,生活,つまり
ADLより複雑で高次な動作(たとえば買い物など)をIADL(手段的日常生活活動)といいます.100mしか歩けない人は,トイレまでは歩行可能でも,近所のスーパーに買い物に行くのは難しいかもしれません.生活自立度を評価する際には,IADLも考慮することが必要です.
Lさんは,軽い嚥下障害があって,麻痺もあるから,食事は職員の方が介助するわ.
整容はくしや歯ブラシを渡せば右手でできるかな?
着替えも入浴もひとりではできないし,移動も車椅子を押してもらってる.
トイレはどうだろう,連れてってもらえばできるのかな……?
現在のLさんがなにをどれくらいできるのか,把握しておくといいわね.
はーい!
高齢者の状態を把握するには疾患だけじゃなくて,
ADLを評価する際は,生活のさまざまな場面を評価すること,多職種間で評価基準を統一することも大切です.ADLを評価するスケールの例として,カッツインデックスがあります.
精神状態はいまのところ良好そうだわ.
うーん,でも,そうか.
疾患名がわかっただけじゃ,高齢の利用者さんを理解したことにはならないんだねぇ.
そうなのよ.だから近年は,
包括的にかぁー.
たしかに,どれかひとつの側面しか知らなかったら,ぜんぜんLさんをわかってることにならないね.
でしょう.
高齢者の看護・介護では,介護職,看護師,医師,栄養士などいろんな職種がかかわるから,
はーい!
①高齢者の状態を,身体的・精神的・社会的側面から包括的に評価すること.
②評価を多職種間で共有し,QOL向上を目指す.