老-3章 高齢者とのコミュニケーション 人は,それぞれの歴史をもっています.看護にあたり,どの患者さんにも敬意をはらい,人格を尊重することが大切になります.この章では,特に高齢者とのコミュニケーションについて学びましょう. 高齢者との接し方 レビューブックコード 高齢者とのコミュニケーション: 老-10

70歳のLさんの担当になったわ.

どんなお話をしたらいいかな…….

どきどきするわ.

70年前というと,戦後すぐのお生まれね.

太平洋戦争の終結が1945年だから,たいへんな時代に生まれた方なのね.

はっ! 年齢だけでそこまで推察できるのね.

さすがネコナース……!

ふふ,でも年齢でわかるのはそれくらいよ.

どこのご出身か,どんな環境で生きて来られたか,どんなものを大事にして来られたかで,同じ70歳でも,生きてきた軌跡はまったく違うもの.

そうか……70歳の方はみんな,それぞれに違う70年を生きてきているんだものね.

その方の生きて来られた生涯の歴史のことを 生活史といって,高齢者の人となりや,その人との適切なかかわり方を探ってゆく助けになるわ.

Lさんの生きて来られた時代背景を知る 102P58ことも,Lさんへの理解につながるのよ.

わたし,Lさんがどんな方か,知りたくなってきたわ.

ちょっとお話ししてくるね.

戦争の話はしたくない方もいるから,気が進まなそうだったら無理に聞いたりはしないようにね.

はーい.

(1時間後)

ただいま〜.

「たいへんな時代にお生まれになったんですね」って言ったら,「そうなのよ」っていっぱい小さい頃のお話をしてくださったわ.

ご主人も早くに亡くされて,いろいろ苦労されたみたい.

そうなの.

たくさんお話を聞けてよかったわね.

うん.

でもね,今はからだは思うように動かないけど食べるものにも困らないし,職員の皆さんが助けてくれるし,とってもありがたいって言ってたわ.

それはよかった.

職員の皆さんが聞いたら喜ぶわね.

あとで伝えておこうっと.

それでね,みんなには内緒なんだけど…….

Lさん,好きな人がいるんだって!

まあ,そうなの?

それはすてきね!

相手はまだヒミツだって.誰だろ〜.

でも,それを息子さんに言ったら

「70にもなって再婚でもする気なの?

恥ずかしいよ」って言われちゃったって.

その話のときだけちょっとしょげてたわ.

それはショックだったでしょうね.

あなたはなんて言ったの?

「何歳になったって,恋はステキです!」って断言してきちゃった.

……まずかったかなぁ?

いいのよ,それで.

何歳であろうと,Lさんをひとりの人間として尊重して,共感を示すことが大切 104P59 103A99よ.

ほっ,よかったぁ…….

でも,70歳になっても恋はあるんだねぇ.

なんだか,わたしまで幸せになっちゃった.

りっしんべんに生きると書いて「性」よね.

すでに産み育てる年齢でないとしても,セクシャリティの尊重はQOLの維持につながる 103追P56わ.

Lさん,幸せそうにしてたでしょ?

うん! すごくいい笑顔だったわ.

何歳になっても,恋するとキレイになるのね〜.

包括的に状態を評価する レビューブックコード 高齢者の生活アセスメント: 老-8

Lさんの人柄,社会的な側面がわかったところで,身体的な面もきちんと理解しておきましょうね.

Lさんはどうして要介護状態になったんだっけ?

えっと,脳卒中で左片麻痺の後遺症があるの.

疾患としてはそうね.

ただ,片麻痺の方は世の中にたくさんいて,おうちで生活してる方もいるわよね.

どうしてLさんは特別養護老人ホームに入られたのかしら?

あ……どうしてだろ?

障害が重かったから……?

要介護度も4だったわ.

そうね.

要介護度が重いということは,生活,つまり ADL日常生活活動)にたくさん障害があるということなの.

 ADL

ADLより複雑で高次な動作(たとえば買い物など)をIADL(手段的日常生活活動)といいます.100mしか歩けない人は,トイレまでは歩行可能でも,近所のスーパーに買い物に行くのは難しいかもしれません.生活自立度を評価する際には,IADLも考慮することが必要です.

Lさんは,軽い嚥下障害があって,麻痺もあるから,食事は職員の方が介助するわ.

整容はくしや歯ブラシを渡せば右手でできるかな?

着替えも入浴もひとりではできないし,移動も車椅子を押してもらってる.

トイレはどうだろう,連れてってもらえばできるのかな……?

現在のLさんがなにをどれくらいできるのか,把握しておくといいわね.

はーい!

高齢者の状態を把握するには疾患だけじゃなくて, ADLや,抑うつ状態になっていないかなどの 精神状態の把握も大切よ.

ADLを評価する際は,生活のさまざまな場面を評価すること,多職種間で評価基準を統一することも大切です.ADLを評価するスケールの例として,カッツインデックスがあります. 入浴,更衣,トイレ,移動,排尿・排便自制,食事の6つの領域のADLに関して,A〜Gの7段階の自立度指標に分類して判定します 100P89

精神状態はいまのところ良好そうだわ.

うーん,でも,そうか.

疾患名がわかっただけじゃ,高齢の利用者さんを理解したことにはならないんだねぇ.

そうなのよ.だから近年は, 高齢者の総合的機能評価CGA)といって,高齢者の状態を身体的・精神的・社会的側面から包括的に評価するということが行われているの.

包括的にかぁー.

たしかに,どれかひとつの側面しか知らなかったら,ぜんぜんLさんをわかってることにならないね.

でしょう.

高齢者の看護・介護では,介護職,看護師,医師,栄養士などいろんな職種がかかわるから, 評価を多職種間で共有 104P58して,高齢者のQOLの向上を目指すのよ.

はーい!

高齢者の総合的機能評価(CGA)

①高齢者の状態を,身体的・精神的・社会的側面から包括的に評価すること.

②評価を多職種間で共有し,QOL向上を目指す.