心不全:C-39
最初に,心不全は大きく
右心不全? 右心側が悪くなることもあるのね.
えぇ.ただまずはFさんにみられた左心不全に絞ってみていきましょうか.
左心不全の症状は,原因別に2つの症状があるの.
ひとつは
肺うっ血による症状っていうのは,さっき説明してくれた呼吸困難などのことよね.
えぇ.
もうひとつの原因に挙がってた心拍出量って,心臓が1回に全身へ送り出せる血液の量のことよね.
それが低下すると,どんな症状が現れるんだろう?
簡単にいえば,全身が酸素不足になってしまうのよ.
そうか.全身に酸素を運ぶ血液の量が減るからよね.
酸素が足りなくなるとどうなるの?
見た目で一番わかりやすい変化は
チアノーゼって?
唇や指先が青紫色になった状態のこと
還元ヘモグロビンはヘモグロビンと比較して色調が暗い特徴があります.そのため,
心拍出量が低下すると,身体の末端の血色が悪くなっていくってことかしら.
血色が悪くなるだけじゃないわ.
チアノーゼはあくまで外見上の変化なの.
酸素が筋肉や臓器に行きわたらなくなるってことで,倦怠感や疲労感,意識障害などを起こすこともあるわ.
そうなんだ!
心拍出量が減少すると腎血流量も低下し,尿量が少なくなります.ただし,夜間就寝時は臥位をとるため,腎血流量が増加して頻尿となります.
それと,心拍出量が低下すると代わりに交感神経が亢進して,心拍数を増加させようとするのよ.
1回に血液を送り出す量が少なくなっているから,送り出す回数を増やしてそれを補うわけね.
だから,身体のほうでも心不全の症状をカバーしてくれているのね.
えぇ,ただ心拍数を増やすのにも限界があるの.
限界を超えると心機能が急激に悪化するので,その場合は治療が必要になってくるわ.
左心不全の患者さんに特有な症状をまとめるとこんな感じよ.
左心不全の症状として,聴診時に心音ではⅢ音,Ⅳ音,呼吸音では水泡音が聞かれることが挙げられます.また,胸部エックス線写真で肺門のうっ血による蝶型の陰影,胸水などがみられるのが特徴です.
よくわかったわ.
じゃあ,右心不全はどんな状態なの?
こうなると,全身にうっ血がみられるようになるの.
さっきは左心不全になると肺がうっ血するって言っていたよね.
右心不全ではうっ血が全身にみられるのはなんで?
血液の流れを思い出してみて.
左心不全のときは左心に戻るはずの血液が肺にたまってうっ血が起こったわけでしょ.
右心に血液が戻れなくなったら,その分の血液はどこにたまると思う?
右心は全身からの血液が戻ってくるところだから,全身に血がたまってしまうのね!
うっ血は,あくまで静脈血が体内のいずれかの臓器や組織でうっ滞している状態を指します.一方,動脈血の血流が増大している状態のことは,充血と呼びます.どちらも組織の血流が増大したことで起こる症状ですが,両者はまったく定義が異なるものなので注意しましょう.
そのとおり!
全身がうっ血すると静脈が血液で充満するの.
そうすると全身のさまざまな箇所で静脈から水分が血管外に滲出するようになるのよ.
にじみ出た水分が貯留したものは,胸水,腹水,
水分の貯留によって体重が増加するのもポイントね.
右心不全の患者さんでは,先述の症状以外にも頸静脈怒張や肝腫大がみられます.特に頸静脈怒張は右心不全の重要な指標となります.ただ,仰臥位で頸静脈の怒張がみられても,異常だとは見なされません.半坐位,または坐位で怒張がみられて,初めて右心不全を疑います.
なるほど!
ただ,右心不全は単独で起きることは非常に少なくて,左心不全が慢性化して起きることが多いのよ.
この同時に左心と右心が障害された状態のことを
なんで左心不全が慢性化すると右心不全が起こるのかしら?
左心不全が慢性化すると肺うっ血がどんどん悪化していくでしょ.
そうすると,肺に血液を駆出する右心にも大きな負担がかかるの.
それが結果的に右心不全につながるのよ.
なお,肺や気管支の疾患で肺の血流が停滞することでも右心不全を起こします.これを肺性心といいます.
1か所の流れが悪くなると,そこから上流の流れも少しずつ悪くなっちゃうってことか.
それってたとえば,大きな橋がボロボロになって通りづらくなることで,橋を渡る道路が渋滞したり,橋の先で荷物を待っている人が困ったりするってことよね!
あら,いいたとえじゃない.
ところで,Fさんはどこかむくんだりしていなかった?
あ! そういえば,足が少しむくんでいたわ.
じゃあ,左心不全のほかに右心不全の疑いもあるわね.
ここまでで,心不全とは心臓の機能が低下して全身の血液循環に異常を生じた状態を指し,左心不全,右心不全ともにさまざまな症状を起こすことを学習してきました.しかし,ひとたび心不全になったからといって,ここまで学習してきた症状がすべて同時に出現するというわけではありません.
そこで,どのような症状が現れたら心不全と診断するかの基準が必要になってきます.そのような基準で有用なもののひとつとして,
フラミンガム項目では心不全によって引き起こされる症状が大項目と小項目の2つに分類されています.そして,患者に
大項目 | 小項目 |
---|---|
発作性夜間呼吸困難 | 下腿浮腫 |
頸静脈怒張 | 夜間咳嗽 |
肺の断続性ラ音 | 労作性呼吸困難 |
心拡大 | 肝腫大 |
急性肺水腫を示唆するX線所見 | 胸水貯留 |
Ⅲ音 | 肺活量減少 |
中心静脈圧16cmH2O以上 | 頻脈(120回/分以上) |
肝頸静脈逆流 | |
循環時間延長(25秒以上) |
心不全は血液検査などの客観的基準だけで明確に診断できるといったものではないため,患者さんの様子を注意深く観察し,上記のような基準に当てはめて慎重に診断を行う必要があるのです.